「感性 x 宇宙」の可能性
「感性 x 宇宙」の可能性とは?
本稿では、コスモクリナビが考える「感性 x 宇宙」の可能性についてご紹介します。
前回の投稿「【イントロ】コスモクリナビが目指すこと」でも触れたように、近年広がる国や企業の宇宙活動では、安心・安全・便利の実現や新しい知見の獲得といった目的のために、宇宙の「機能的価値(道具的価値)」を活用する動きが中心です。
一方で、宇宙がもたらすワクワク感や感動といった、宇宙の「感性的価値(精神的価値)」の活用は、まだ十分に開拓されていません。
しかし、技術革新や宇宙ビジネスの広がりによって、人工衛星や宇宙ステーションなどの利用コストは大きく低下し、これまで実現が難しかった宇宙インフラを活用したエンタメやアートなど、「感性 × 宇宙」に関わる取り組みが少しずつ広がり始めています。私が関わっていたソニーグループ(株)のSTAR SPHEREプロジェクトもその一例です。
こうした取り組みを一過性の試みで終わらせず、大きなムーブメントへと育てていくためにも、「感性 × 宇宙」が持つ可能性を整理し、社会に伝えていくことが今後ますます重要になっていくでしょう。
私は「感性 × 宇宙」には、次の5つの大きな可能性があると考えており、これこそがコスモクリナビとして本テーマに取り組む理由でもあります。
- 宇宙の包摂的な価値を伝える力
- 宇宙ビジネスの新たな潜在市場
- 新しい文化を創り出す可能性
- 新しい宇宙開発・利用のアプローチ
- 人類・社会に新しい価値観や視座を与える力
本稿では、これらについて順に解説したいと思います。
(1) 宇宙の包摂的な価値を伝える力
これまでの人生で、私は宇宙が持つ多様な価値に触れてきました。
子どもの頃は、星空の美しさや宇宙開発へのワクワク感。大学時代には、研究を通して知る宇宙の奥深さ。社会人になってからは、宇宙飛行士が人類の活動領域を広げる意義、衛星データが社会課題を解決する力、さらに宇宙ビジネスの経済的インパクトや国益としての価値を学んできました。
特に印象的だったのは、アジア開発銀行に出向し、アジア太平洋地域の途上国で衛星データ利用を推進した経験です。1日1ドルで暮らす人々にとって、宇宙はどのような意味を持ち得るのか、私は真剣に考えさせられました。人工衛星は、天気予報や災害対策情報、位置情報、インターネットなど、社会インフラを支える機能的(道具的)価値を提供し、生活に直結する課題解決に貢献できます。
しかし、それだけではありません。星空の美しさに心を動かされたり、宇宙の広がりの前に自分のちっぽけさを感じたり、未知へのワクワクを抱いたり――こうした感覚は、世界中の誰もが共有できる「包摂的な価値」です。私は、宇宙の最も普遍的な価値は、この感性的価値にこそあるのではないかと考えるようになりました。
「感性 × 宇宙」の取り組みは、この最も包摂的な宇宙の価値を人々に伝える力を持っています。宇宙を「遠いもの」ではなく「誰にでも開かれたもの」として捉え直すための取り組みと言えるでしょう。しかし現状では、その魅力はまだ十分に伝わっていません。だからこそ、エンタメやアートといった形を通じて、より良いコンテンツや新しい伝達手段を生み出し、伝えていくのが重要だと考えています。
(2) 宇宙ビジネスの新たな潜在市場
宇宙ビジネスは、2040年には100兆ドル規模にまで成長すると予測されている有望な領域です。すでに、数千機規模の衛星を打ち上げる「衛星コンステレーション」によるブロードバンドインターネット、衛星データを活用した各種ソリューション、再使用型ロケットによる宇宙輸送、月や小惑星の探査など、多様な取り組みが広がっています。また、農林水産業、建築・土木、保健、金融など異業種との連携も進み、宇宙ビジネスは社会基盤や産業の広がりを支える存在になりつつあります。
その一方で、宇宙が持つ「感性的価値」に基づくビジネス――たとえば宇宙エンタメ、宇宙芸術、宇宙教育、宇宙観光など――は、まだ未開拓の領域(ブルーオーシャン)として大きな潜在性を秘めています。2023年時点で、映画・音楽・ゲーム・ライブ・スポーツといった世界のエンタメ産業は約360兆円規模に達しており、この巨大市場と宇宙の感性的価値を掛け合わせることで、新たな産業の創出が期待できます。
特に日本は、アニメ・マンガやゲームなど強力なコンテンツIPを持つ国です。こうした強みを活かせば、国際競争力を備えた「感性 × 宇宙」ビジネスを展開できる可能性が十分にあります。
宇宙利用コストの低減を背景に、この領域はこれから本格的に拡大していくと考えています。今まさに「感性 × 宇宙」のビジネスチャンスをつかむ絶好のタイミングだといえるでしょう。
(3)新しい文化を創り出す可能性
宇宙は、人々に新しい視点やインスピレーションなどの感性的価値を与えてくれます。宇宙エンタメ、アート、教育などの「感性 x 宇宙」の取り組みが広がることで、宇宙を感性的に捉えた芸術作品、音楽や哲学など、「宇宙の視点」に基づく新しい文化が生まれてくるでしょう。
私は、STAR SPHEREプロジェクトで宇宙アートのコラボレーション企画のプロデュースを担当させていただきました。その際に掲げたコンセプトが「宇宙時代の洞窟壁画」です。ラスコーの壁画が、古代人が生きた環境や生活だけでなく、彼らが何を敬い、何を美しいと感じていたのか――その「こころ」を現代に伝えているように、宇宙に進出した初期世代を生きる私たちも、未来の人々に対して宇宙のデータだけでなく「こころ」を作品として遺していきたい。その思いから生まれた取り組みでした。こうして創られた「宇宙の視点」に基づく芸術作品は、まさに宇宙時代の新しい文化の萌芽だと考えています。
これまで「宇宙」といえば、星やロケットを図鑑で学ぶ、科学博物館やプラネタリウムで体験する――といった理系的なトピックに偏ったイメージが強くありました。しかし文化的な取り組みが広がることで、そのイメージは更新されるはずです。言わば「宇宙のリブランディング」であり、感性的価値を広く伝えるための有効なアプローチになるでしょう。さらには、「宇宙の視点」に基づく新しい学びの形も生まれるはずです。
宇宙に科学技術を用いて進出するだけでなく、そこにふさわしい文化を築いていく――その可能性に、私は強いワクワクを感じています。
(4)新しい宇宙開発・利用のアプローチ
私は2020年にまとめたペーパー「感動駆動型宇宙利用と社会の変革」で、宇宙開発・利用の進化を次のように整理しました。
- Space 1.0:Government-driven=国家・政府主導による宇宙利用
- Space 2.0:Business-driven=商業原理に基づき、宇宙の機能的価値を活用した民間ビジネスのための宇宙利用
- Space 3.0:Billionaire’s vision-driven=商業原理に加え、起業家の壮大なビジョンに駆動されたビリオネア主導の宇宙利用
そして、その次に想定しうる段階が Space 4.0:People’s emotion-driven =感動駆動型宇宙利用です。これは、宇宙の「感性的価値(精神的価値)」を基盤に、富裕層や一般の人々の個人消費によって推進される新しい宇宙利用の姿です。
もし「感性 × 宇宙」に基づくビジネスが拡大できれば、宇宙開発や利用は国家や企業だけのものではなく、個人の感動や体験欲求に支えられる文脈へと広がっていくでしょう。
宇宙の感性的価値が社会に根づいていけば、未来には大航海時代のように、人々がワクワクや感動を求めて資金を集め、人工衛星や探査機を宇宙に送り出す時代が訪れるかもしれません。科学技術だけでなく「心の力」が宇宙開発・利用を推進する、そんな新しいアプローチに期待をしています。
(5)人類・社会に新しい価値観や視座を与える力
「感性 × 宇宙」と聞くと、宇宙エンタメや宇宙アートなど、どこか娯楽的なものに映るかもしれません。それに対し、防災や気候変動対策などの社会課題の解決、あるいは人類の活動領域や知見を広げる科学的・技術的な宇宙利用の方が、より「意義がある」と考える人もいるでしょう。
しかし、宇宙を通した物事の捉え方――すなわち「宇宙の視点」――を、感性を通じて人々に届けることは、社会に新たな価値観や視座をもたらす、極めて重要な意味を持っています。
たとえば、アポロ計画の宇宙飛行士が撮影した「地球の出」や「ブルーマーブル」といった写真は、それまで壮大で果てしない存在と考えられていた地球を、小さく、可憐で、孤独な存在として人々に印象づけ、私たちの視点を大きく変えました。それは単なる写真ではなく、価値観を変革する「感性的体験」だったのです。
今日、宇宙利用のコストが下がり、人工衛星や宇宙ステーションといったインフラが身近になる中で、「感性 × 宇宙」の取り組みもいよいよ現実のものになりつつあります。アーティスト、哲学者、教育者、表現者など、これまで宇宙に関わることが難しかった人々が、実際に宇宙と接点を持ち、その体験を通じて新しい価値観や視座を社会に還元していく――そんな未来が近づいています。
「宇宙を使う」のではなく、「宇宙と向き合う」ことで、人類は新しいものの見方を手に入れることができる。「感性 × 宇宙」は、その変革の入り口となる力を秘めているのです。
「感性 x 宇宙」を切り拓く、コスモクリナビの活動
いかがでしたか?
「感性 × 宇宙」が持つ多様な可能性、そしてそこに取り組む意義を、少しでも感じていただけたなら嬉しく思います。
コスモクリナビは、宇宙が本来持っている包摂的で感性的な価値を信じ、それを人々の心に届けるために、エンタメ・アート・教育など多様な体験やビジネスの創出に取り組んでいきます。
さらに、感性を通じて「宇宙の視点」から世界を見つめ直し、新たな哲学や価値観を創出し、育てていくことも、私の大切な挑戦です。
このWebサイトでは、「感性 × 宇宙」に関する新しいコンセプトやコンテンツ、取り組みについて紹介していきます。少しでも心が動いた方がいれば、ぜひ一緒に考え、創り、広げていければと思います。
宇宙の感性が、あなたの中にも静かに芽吹くことを願って――。
